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No.33

特にテーマはございません。日常で見たり聞いたり考えたことを、徒然なるままに。

ある雨の日、冬

創作

冬の雨は冷たい。そう思っていた。

 

 

その日は朝から雨。

春の足音もまだ聞こえず、寒さがまだしっかり居座っている頃で、冷たい風が吹いていた。

 

私は傘を差し、待ち合わせのカフェへ向かっていた。

約束の時間に遅れそうだったので、ちょっと小走りに。

揺れる傘をすり抜けた雨粒たちが、手を濡らした。

 

濡れた手に風が吹きつける。濡れた手から熱が奪われていく。

しまった、手袋を忘れた。そう気づいたのは、もう引き返すには遠すぎる場所だった。

傘を握る手がどんどん冷たくなる。傘を握る手の感触がだんだん遠くなる。

 

カフェに着きドアを開け、暖かい店内に入ってひと息。

傘を傘立てに入れ、グルッと見回すと、奥の席に約束の相手を見つけた。

 

「ごめんごめん、遅れちゃって。」

「ぁ、全然、大丈夫。私もさっき着いたところだし。」

 

そのヒトの前に置いてある紅茶からは、濃い湯気が立ち昇っている。

私はマスターにコーヒーを頼み、席につく。

凍えた手に息を吹きかけ、互いに擦り合わせる。指先の感覚が戻ってきた。

 

「寒そうだね。」

「とっても寒かったよ。手袋忘れちゃってさ。

 指先の感覚がなくなっちゃった。冬の雨は冷たいね。」

 

そう私が言うと、そのヒトは怪訝な顔をして小首を傾げ、こう言った。

 

「冬の雨って、温かいよ。」

 

え?今度は私が怪訝な顔になっていただろう。

あまりの意外さに、言葉をなくしていた。

そのヒトはこう続ける。

 

「だってさ、雨がもっと冷たくなったら雪になるでしょ。」

 

そこに、マスターが淹れたてのコーヒーを運んでくる。

言葉に間が生じる。まだ私の考えは落ち着くべき所に収まらない。

 

「雪になってないんだったら、雨はそう冷たくないってことでしょ。

 雨は温かいんだよ。雨の日の朝って、そんなに冷え込みも厳しくないしさ」

 

そのヒトは続ける。

いや、それは空が雲に覆われて放射冷却が、とか何とか、言葉尻をとらえただけの言葉が頭に浮かんだが、脇に追いやって考える。

雨が温かい?だったら、感覚がなくなる程に手が冷え切ったのは何なんだ。

そう問う。

 

「風が冷たいだけでしょ?雨が冷たいわけじゃなくて。」

 

ああ、そうだったかも知れない。濡れた手に風が当たって冷えていっただけかも知れない。

記憶を辿り、思い返す。確かに、雨、それ自体は冷たくはない?世界の見え方が少し変わった。

 

私たちは、取り留めのないお喋りを続け、互いのカップが空になった頃合いで店を後にした。

外へ出ると、雨は、幾分、小降りになっていた。風は止んだようだ。

 

湿り気を帯びた空気がやわらかい。

傘から手を出して雨に触れる。

 

 

冬の雨は温かい。そうなのかも知れない。